ミルトン・エリクソンの逸話から人間関係を学ぶ

 

 

『私の声はあなたとともに』(シドニー・ローゼン編)には、ミルトン・エリクソンの逸話がいっぱい収録されています。

 

催眠療法家やNLPなどのセラピストのテキストにもなる本ですが、一般の人が読んでも大いに役立つものです。

 

 たとえば、人間関係を良好なものにするための教訓が得られます。ミルトン・エリクソンは会話の達人です。言葉の力で人の病や悩みを癒してしまいます。ですから、このミルトン・エリクソンのテクニックや考え方や哲学を学ぶことは、人と接するうえで大いに役立つのです。

人間の悩みの9割は人間関係

 私たちの悩みごとの大半は人間関係です。

お金がないことや、仕事がうまくいかないことで悩むことはありますが、その悩みはお金がないことで家族に貧乏暮らしをさせてしまっていたり、仕事がうまくいかないことで上司に叱られたりすることが根本の悩みとなっているのではないでしょうか。つまり、家族や上司という人間関係に悩むわけです。

 

 お金がなくても、家族が喜んでくれたら問題はありません。

 

「お父ちゃん、今夜もおかずはお漬物だけだね。僕、漬物大好きだよ。やったね」

 と息子が喜んでくれれば幸せです。

 

「お父ちゃん、明日の米がないけど、水はまだ止められてないから何とかなるね。私幸せよ」

 と妻が幸せを噛みしめてくれたら悩むことはありません。

 

 

 しかし、現実は違います。

 

「何だよ。今日も漬物だけかよ。肉が食べたいよ。肉が!」

 と息子は泣き出し、

 

「あなた、もっと働いて、稼いできなさいよ! お金がなくなったら離婚よ!」

 と妻は怒りまくるわけです。

 

 そう考えると、悩みというのはつきつめると人間関係に行き着きます。逆に考えると、人間関係の問題が解決したら、9割はハッピーになれるとも言えます。

 

 どんなに貧乏しても、妻と子どもが力を合わせて励まし合っていけば、貧乏なんてすぐに脱出するでしょう。家族の絆が強固なものになり、団結してお金を稼げば、お金はどんどん入ってくるでしょうし、大きな屋敷に引っ越すこともできるのです。

人間関係に悩む人がやってしまう過ちとは?

 もしも、ご主人が働いてくれない場合、あなたならどうしますか?

 

 あなたのご主人は一攫千金を狙っています。儲け話にホイホイのってしまい、怪しい連中に大金を渡してしまい、貯金もなくなり、来月の家賃が支払えない状態です。

 

 あなたはご主人を責めるでしょう。

 

「何やってるのよ。ちゃんと働いて、お金を家に入れてちょうだい」

 あなたは怒り狂います。怒鳴ったり、喚いたり、泣いたりします。茶碗やお皿を投げるか

もしれません。最終手段として「離婚よ!」と脅迫します。

 

 

 しかし、責めれば責めるほど、ご主人は意固地になるのです。改心して働きだすどころか、ますます怠けていきます。

 

 責めてもうまくいきません。次にあなたが考える方法は、繰り返し責めるというものです。毎日、毎日、何度も何度も、繰り返し責めます。顔を見るたびに、あなたはご主人を責めて「働け! 金を持ってこい! 稼げ!」と大声を出すのです。

 

 うんざりしたご主人は離婚を決意します。そして、2人は離婚するのです。これでは、何の解決にもなっていません。

 

 ご主人を責めるという方法も、繰り返し責めるという方法も、間違っています。もっと別の方法でアプローチする必要があるのです。

 

 さて、ミルトン・エリクソンはどのような方法を使っているのでしょうか?

 

 ミルトン・エリクソンの催眠療法のエピソードから学んでみましょう。

 

催眠に抵抗を示す人にミルトン・エリクソンはどう対処したのか?

 人間関係の問題は、奥底には考え方の違いがあります。ご主人は、一攫千金で一気にお金を稼いでみせるという考え方を持っていますし、奥様は、一攫千金なんか狙わずにコツコツと真面目に働いて欲しいという考え方を持っています。

 

 相反する考え方が衝突しているわけです。そこで、奥様は、ご主人の考え方を変えようとしています。泣いたり喚いたりしてご主人を責めることで考え方が変わると思っていたのですが逆効果でした。どうすればいいのでしょうか?

 

 ミルトン・エリクソンにこんな逸話があります。

 

 ある教授がある女性に催眠をかけようとするのですが、まったくかかりません。何度か繰り返したのですが、彼女はトランスに入りませんでした。

 

 教授は彼女をトランスに入れようとしますが入らないわけです。一攫千金を狙うご主人を真面目に働かせようとする奥様と同じ状況です。何度もチャレンジしますが、結局うまくいかず、ついに教授はあきらめてしまい、ミルトン・エリクソンに彼女のことをゆだねたのです。

 

 ミルトン・エリクソンはその女性に対して、無理に催眠をかけようとはしませんでした。ミルトン・エリクソンは、

「あたかも、トランスに入ったかのようなフリをしてください」

 と彼女に言ったのです。

 

 しばらくして、目を開けるように指示し、

「私の手だけを見ることができるでしょう?」

 と言いました。

 

 そうやって、浅いトランスに入れたり出したりしているうちに彼女は深いトランスに入ったのです。

 

 

 ですから、真面目に働いてくれないご主人に「働け!」と言うよりも、働いているフリでもして欲しいと言えば、結果は違っていたかもしれません。実際には、そんなに簡単にはいかないでしょうが、試してみる価値はあります。

 

実際の人間関係でどのように応用すればいいのか?

 ミルトン・エリクソンには他にも、こんなエピソードがあります。

 

 なかなか催眠にかからない女性がミルトン・エリクソンのワークショップに参加しました。ミルトン・エリクソンは彼女にいくつか質問をして、彼女がフランス人であること、フランス料理や音楽の話をするのが大好きであることを見つけます。

 

 彼女が音楽の話をはじめると、ミルトン・エリクソンは耳を傾けて音楽を聴く姿勢をとってみました。すると、彼女も耳を傾けて音楽に聞き入る姿勢になるのです。彼女はとりわけ音楽には強い関心がありました。そのことにミルトン・エリクソンも気づいたのです。

 

 そこでミルトン・エリクソンはこう言います。

「あなたも聞こえますか? とってもかすかな音でしょう? オーケストラはどのくらい離れているのでしょうか。でも少しずつ近づいてきている感じはします」

 

 ミルトン・エリクソンはオーケストラのいる音楽ホールをありありとイメージさせます。まもなく、彼女は音楽に合わせて拍子をとらずにはいられなくなりました。

 

「オーケストラには、バイオリニストが1人か2人いませんか?」とミルトン・エリクソン。

 

「2人」と彼女。「他にサキソフォン奏者がいます」

 

 

 こうしてミルトン・エリクソンと彼女は楽しい時間を過ごしたのです。

 

 彼女は、ミルトン・エリクソンとともに、お気に入りの曲を聞きました。それこそ、まさにトランスに入っているわけです。

 

 

 催眠にかけようとするとかかりません。トランスに入れようとか、真面目に働かせようとする試みはすべて失敗します。相手をコントロールしようとすると、人は強烈に抵抗を示すだけです。相手を変えようとか、コントロールしようとしてもムダなのです。

 

 ミルトン・エリクソンは、相手の好みを見つけ、その世界に入って一緒に楽しむことで、導いていきます。ですから、ご主人が一攫千金を夢見ているのなら、奥様も一緒に夢見て楽しめばいいのです。

 

 

「一攫千金って楽しそうね。私にも教えて」

 奥様がそう言えば、ご主人は大喜びで話が弾むはずです。そこには喧嘩は一切ありません。衝突も抵抗もないのです。抵抗を示していたときは、話し合いさえ持てませんが、一緒に一攫千金を夢見れば、ご主人はきっと時間を忘れて話し出します。

 

「いいね! 今度の仕事は、大きいんだ。たった50万円を投資するだけで、なんと、1か月でそれが1,000万円になるんだから」

 とご主人は目を輝かせるでしょう。

 

「1,000万円あったら、何が買えるかしら、そのとき、何して遊ぼうかしら。海外旅行もしたいなぁ」

 

「いいぞ。どこへでも連れていってやる」

 

「ありがとう!」

 

 

 それは、それは、楽しい時間を過ごすことができるはずです。何日も、何日も、そんなふうに楽しい時間を過ごせばいいのです。そして、頃合いを見て「では、明日のお米はどうしましょうか?」と話せばいいのです。

 

 

 まずは、話し合いとコミュニケーションの取れる状況を作ることです。