私のヒプノ赤ちゃん体験記 ~“帝王切開”は怖い?と思っているママ達へ⑥

「4時10分、女の子です」
目の前にある緑色のつい立のむこう側から、医師の声が聞こえてきます。
ああ、よかった…。
胸のつかえが取れた、というより「お腹のつかえが取れた」感じ。
アーンアーンという可愛らしくて力強い産声が聞こえてきます。
「3162グラム、思ったより大きい子ですよ」
横を向くと看護師に抱かれた赤ちゃんが、長女にそっくりな顔で真っ赤になって泣いています。
「よく来たねえ、ああよく来た、よく来た…」
私は、おばあちゃんみたいな口調で赤ちゃんに話しかけていることに気付き、思わず笑ってしまいました。
ついに私は帝王切開で、次女を出産しました。思ったよりも短い時間で。そして、思っていたよりも冷静に。ヒプノセラピーのおかげで、私の2回目の出産は滞りなく済ませる事ができました。これから私、真彩巳が体験した実際の出産の様子をお話したいと思います。

◆赤ちゃんからの警告 ~もしかして破水?
 私は昨年の10月から、ヒプノセラピーを使った出産方法について学んできました。帝王切開への怖さや産後ウツへの不安など、6年前の出産の際に感じていたネガティブな感情を払しょくすること。また、経膣分娩でなくても幸せを感じられるお産を目指し、私は毎日呼吸法やアファメーションを行って、心の準備を整えました。

 

 臨月の2月に入りました。身体はますます重くなり、夕飯を作るのがやっと、という日も増えてきました。それでも幼稚園の行事、長女のお誕生日など、スケジュールはぎっしり詰まっています。また、赤ちゃんが産まれた後だと買い物もままならないと思い、長女の小学校入学準備もこの頃に強行していました。一度は買い物中に気分が悪くなり、ダンナに仕事から早く帰ってきてもらったこともありました。
出産予定日は、37週目。私は毎日カレンダーとにらめっこしながら、お腹の子に「もう少しだから、がんばろうね」と声をかけていました。

 

 入院当日の朝のこと。不思議なことが起こりました。いつもより早く目が覚めると、下着が濡れているのに気付いたのです。
「もしかして破水したのかも…」
私は布団の中で、2週間前の妊婦健診のことが頭をよぎりました。自覚症状はなかったのですが、いつ陣痛が来てもおかしくないくらいお腹が張っていると言われていたのです。
「破水してからの緊急手術は大変だから、あと残り2週間は大人しくしていて下さい」
「何かあったら、お腹の張り止めの薬を飲んで、電話を下さい」
助産師さんや医師の言葉を思い出し、まず薬を飲んで身体に異変がないかどうか確認しました。陣痛が来ている感じもなく、起き上がっても、それ以上羊水が出てくる気配もありません。それでも万が一のことを考えて病院に連絡を入れ、ダンナにできるだけ早く車で送ってもらうことにしました。
病院には午前8時前には到着していたと思います。まず病室で助産師さんの検査を受け、しばらくしてから診察室でも医師の検査も受けました。が、結果は異状ナシ。原因もわかりませんでした。結局、手術は予定通り翌日の15時半から行われることになり、慌てて病院に駆け込んだのに、拍子抜けしてしまいました。
「お騒がせして、すみません」
頭を下げる私に、看護師さんは
「いいんですよ、なんともなくて良かったですね。今日は一日ゆっくりしていて下さい」
その言葉に、私はこれまでのハードスケジュールを思い返しました。また、もしもこの件がなければ、私は入院時間のギリギリまで、家事をこなしていたでしょう。赤ちゃんは充分にがんばっていたのかもしれません。朝のひと騒動は、「もういい加減休んでよ!」という警告だったのでしょう。とても不思議な体験でしたが、明日に備えてゆっくり休む事にしました

 

◆「手術」という本番 ~さらに予想外のできごとが
 そして、手術当日。この日は朝から絶食で、水すら飲めませんでしたが、なんとなく高揚した気分でした。例えるなら、ダンスやピアノの発表会前の感じ。これまでの成果が試されるわけです。練習が不十分ならきっと舞台に立つのが怖いと感じていたでしょう。しかし私は、自分自身を充分に信頼していました。きっとうまくいく。
そして15時。家族もお見舞いに駆けつけてくれました。私は手術服に着替え点滴をされています。
「では、うがいさん、行きましょうか」
15時半、看護師さんと一緒に歩いて分娩室に入りました。

 

 まず、横向きに寝てお腹抱えるようにして丸まり、背中を突き出すようにして腰に麻酔を打ちます。この瞬間、私は長女を出産した記憶が鮮やかに蘇りました。この丸まった姿勢がお腹を押さえつけるようでとても苦しく、非常に動揺したこと。麻酔が効いていることが感じられなくて、怖くなったこと。
しかし、同時に身体は練習していたことをちゃんと覚えていたのです。まずはゆっくり呼吸をすること。
(1、2、3、4、5…)
私は心の中で、カウントしながらゆっくりと呼吸を合わせていきます。麻酔がジンジンと効いてきて、下半身の感覚がなくなっていきました。仰向けに寝かされると、いよいよお腹にメスを入れます。もちろん痛みはありませんが、お腹を触られている感じはあります。聴こえてくるのは、私が分娩室に持ち込んだお気に入りの曲。私は音楽と呼吸に集中しようとして、あることに気が付きました。下半身は麻酔で麻痺しているせいか、いつもの腹式呼吸はできないのです。
(落ち着いて。呼吸は胸でもちゃんとできる)
試しに胸で大きく深呼吸をしてみました。胸いっぱいに空気を吸い込む、ゆっくりと全ての空気を吐き出す…
(うん、大丈夫)
吸って、吐いて。吸って、吐いて…。私はもう一度呼吸に神経を集中させます。すると、すうっと落ち着いた気分となり、音楽と一緒に、小声で話すお医者さんとスタッフの会話も聞こえてきました。私は全身の力が抜けて、ゆっくりと赤ちゃんが出てくるのを待ちました。
突然、誰かが私のお腹をクッと押しました。するとお腹から、かぽんと何かが外れたのです。
「4時10分。女の子です」
ああ、よかった。本当によく来たね…。
気が付けば、前回のお産のときに付けられた、不快なマスクを着けられることも無く、自分の力で呼吸できていました。前日のトラブルの影響も無く、2回目のお産は、本当に穏やかに済んだのです。

◆穏やかな産後 ~大事なのは「産み方」じゃない
 こんなに穏やかに出来たのは、2回目のお産だったからかもしれません。事前に帝王切開について調べていたからかもしれません。でも、私はヒプノセラピーを通して、このお産に対する準備ができていたからこそ、穏やかな出産ができたのだと思います。
また、心配していた産後ウツの症状も無く、長女の幼稚園の卒園式と小学校の入学式を無事に家族そろって祝うことが出来ました。
「無理しているんじゃない?」
ダンナや私の母は、時々心配そうに声をかけてくれますが、
「ううん、平気よ。自分でもびっくりしているけど」
私は笑顔で答える事ができました。

 

 先日、産まれた子を抱っこして、近所のママと話していた時です。
「この子、帝王切開で産んだんだ」
という私に、
「あら、私もよ!」
というママに何人か会いました。その人たちは、「そんなこともあったわね」ぐらいに、にこやかで堂々とした表情をしていました。そう、経膣分娩でも帝王切開でも、お産は人それぞれのようで、赤ちゃんを産むことには何ら変らないんだと強く実感した瞬間でした。

◆長い道のり 大切な道のり
 あれから4カ月が過ぎました。先日、長女の七五三と次女の百日祝いの写真を撮ってきました。姉妹が仲良く寄り添って撮影する姿を見て、とても不思議な思いがしました。昨年の今頃は、子どもが出来ないと悩んでいた。半年前までは、無事に産まれるかと心配していた。そして今、二人の子育てで毎日テンテコ舞いしている。来年の今頃、私は家族と共にどんな生活をしているのだろうか…そう思うと、あたりまえの日々の積み重ねの大切さを実感します。


 これまでの道のりは、どの瞬間も大切な道のりでした。だから、妊娠中や出産をネガティブにとらえていたら、もったいない。女性の長い人生のうちの、ほんの一瞬の大切な出来事なのだから。どんな形のお産であろうと、ママと赤ちゃんにとっては、大事な瞬間なのだから。
私はここで自信を持って言うことができます。
「帝王切開は悪くない。無事に赤ちゃんが産まれてくれば、どんなお産も大事な瞬間なんだよ」

 

 


 これからママになる人たちへ、このメッセージが少しでも励みになりますように。それでももし不安があるようだったら、ヒプノセラピーを使って、あなたの赤ちゃんとお話してみて下さいね。

 

 最後になりましたが、ヒプノ赤ちゃんをご指導して下さった、セラピストのさかもとみつよさんに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。(了)

(文 鵜養真彩巳)