<膝が痛くて美容どころじゃありません!>という時に



<膝が痛くて美容どころじゃありません!>という時に


 お膝の具合はいかがですか。


 季節の変わり目は特に痛みますよね。

私も朝から辛い毎日でした。


 思うように階段の上り下りが出来ず、手すりを探す自分が悲しくて。


 正座が辛いので椅子が無い場所には行けません。

 そんな時、何十年かぶりに同級生のふみちゃんに会ったのです。


 久々に会うふみちゃんは、とても綺麗で七十歳を超えたというのに、十も二十も若くみえました。


 喫茶店で、あ、今はカフェというのでしょうか、ふみちゃんが注文したのは何だか緑のどろどろした飲み物でした。


 後で娘に聞くとそれはグリーンスムージーとやらで、お肌がつるつるになる飲み物だそうです。


 萌黄色のワンピースを着たふみちゃんからは、何だかふわっと良い香りが漂ってきました。


 地味な焦茶色のズボンを履いた私は、自分がとてもおばあさんに感じて何だか惨めになってしまいました。


 こんな事を申しますと何ですが、ふみちゃんと私は学生時代よく男性から声をかけられたものです。


 今のように、洋服やお化粧品がいくらでも安く買えるという時代ではありませんでしたので、自分に似合う物をよく吟味するくせがついていました。


 黄色が似合うふみちゃんは、装いのどこかに必ず黄色を上手に使っていました。

 私は何色が似合っていたのかさえ思い出せません。


 今のこの差は何なのでしょうか。私も負けてはいられないと思いました。でも如何せん膝が痛くて美容より医療なのです。けれども、ふみちゃんも膝は痛いとは言っていました。では何故あんなに美しくいられるのでしょう。


 私なりにどうしたら良いか検討してみました。



1. 整形外科ではなくて、美容整形外科に行ってみる。


 直接的ですが、確実に皺やシミを取る事ができます。

さらには色白にも、はては部分的に修正する事もできてしまいます。


難点は料金が高いこと。そして私達世代にはまだまだ怖い事です。それにまだ小さな孫が私をおばあちゃんと認識出来なくなってしまうかもしれません。

  

補足になりますが、眼科も利用価値大なのです。重力に対抗しきれず瞼が落ち気味になってしまってきた時、見えないと言えば医療処置が可能なのです。美容整形でなくても目はパッチリ大きくなれるのです!




2.プロのカメラマンに写真を撮ってもらう!


 これはテレビで見たのですが、とても綺麗にメイクを施して、雑誌のモデルさんのような写真を撮ってくれるサービスがあるそうなのです。写真の中の奥様は、まあそれはそれは別人のようでした。ご本人もとても驚かれていらっしゃいましたが、写真を見つめる瞳がキラキラしていたのをカメラのレンズははちゃんと捉えていました。その写真をいつも見える場所へ飾っておけば、気分も高揚します。私でもこんなに綺麗になれるのよ、とシンデレラになれるのではないでしょうか。お客様をお招きしたくなるというオマケもついてきます。



3. 若いツバメを作る。


これは相当ゲリラ的ではありますが、もしかしたら一番効果覿面な方法かもしれません。何故なら皆さま、長くは申しません、そんな話を一度くらい耳にした事はございますでしょ。


色々考えましたが答えは出ません。私は、再会したふみちゃんにズバリ聞いてみました。


「ねぇ、おふみちゃん、どうしてそんなに綺麗なの?」ふみちゃんはふわりと笑って答えてくれました。

「私ね、夫にも先立たれて一人ぼっちでもう生きてる気がしなくてねぇ」ふみちゃんの目がちょっとだけ曇りました。え、そんな・・・。おふみちゃん、何も知らなくてごめんなさい。私は目頭が熱くなってしまいました。


「毎日ご飯も食べる気もしないし、服だっていつも同じ物を着てたのよ」そうだよね。大変だったよね。もう何も言えません。

「でもね、ある日スーパーで見知らぬ年配のご婦人から魔法の言葉を頂いたの」


それはこんなお話でした。


レジを済ませて、お惣菜のコロッケを袋につめていると、何だかふわりと良い香りがして振り向きました。年配のご婦人が話かけてきたのです。皺もシミも年相応なのに、とても素敵な雰囲気の優しそうな方でした。


「ごめんなさい。あなた、何か悲しい事がありましたのかしら。お洋服が寂しそうにみえましてよ。おうちに帰って魔法の言葉を言ってみて」

「鏡を見ながら自分に話しかけてみるの。今日もありがとう。笑顔がとっても綺麗よ。生きててくれてありがとう。悲しい服を着せてごめんなさい。元気に歩いてくれてありがとうってね」


 家に戻り鏡に映った自分を見ていると、ふみちゃんは何故だか沢山涙が溢れてきたのだそうです。

そうしてそれはいつの間にか日課になっていました。

気がつくと明るい服が着られるようになって、スーパーと整形外科以外にも外出するようになっていました。

足取りが軽くなると膝の痛みを忘れる時間も長くなってきたというのです。鏡の中の自分がどんどん愛おしくなったのだそうです。 膝は相変わらず痛いのですが、頑張っている膝も愛おしくて、ありがとうと優しく話しかけているうちに、気のせいか膝の硬さがが和らいで、痛みも薄らいできたように感じる時があるのだそうです。

 

‘ありがとうは魔法の言葉’



何かで聞いたことを私は思い出しました。

自分にありがとうなんて考えてみた事なかったなぁと、何だかしみじみ思っていました。

私の膝も、いささか重くなりすぎた体重を支えながら、毎日奮闘してくれているんだなぁ。


大事に思ってなかったなぁ。申し訳無かったなぁ。

泣きごとばかりでごめんなさい。


ありがとうねと。私は、帰りがけに百円ショップに寄って大きめな鏡を買おうと決めました。


ふみちゃんは、良く見ると皺もシミも沢山ありました。

でもきっと皺もシミも膝も全部ひっくるめて愛しているのだな、と私は何となく感じていました。

久しぶりに会えた大好きな人は、春の風のように柔らかく芳しく私の中を通り抜けていったのです。


そして、たそがれ時のカフェの中庭では、桜の花びらがふわふわと気持ちよさそうに舞い降りて桃色の絨毯をしきつめていたのでした。



(文・おとみ)